Interview

春日井製菓販売株式会社 商品開発部 本田 寛幸 さん
「『沖縄県産黒糖を使用したキャンディ』で超高齢化社会の課題に寄与したい」

春日井製菓販売株式会社 商品開発部
本田 寛幸 さん
本田 寛幸さん 春日井製菓販売株式会社 商品開発部
春日井製菓株式会社で販売する商品の商品開発を担当。主にグミやキャンディの商品開発を実施しており、沖縄県産黒糖を使用したキャンディのもつ効果について研究している。

「沖縄黒糖を使用したキャンディをはじめ、ロングセラーのお菓子を手掛けている春日井製菓株式会社(愛知県名古屋市)。キャンディを通じて社会が抱える課題に貢献すべく、唾液分泌を促進し、口腔機能を維持することができる素材の検討を進める中、沖縄県産黒糖に含まれるポリフェノールが唾液分泌を促進することを確認。その研究の背景について、春日井製菓販売株式会社 商品開発部 本田寛幸さんにインタビューしました。」(インタビュー日:2023年3月15日)

研究の経緯を教えてください。

近年の日本は、様々な社会的課題を抱えています。高齢社会やストレス社会もそういった課題のひとつで、加齢やストレスで口腔内が乾燥するという悩みを抱える生活者が多いと言われています。様々な課題解消に貢献すべく、弊社内には元々”高齢者プロジェクト”があり、機能性素材を使った健康的な商品づくりに取り組んでいました。

2025年には、団塊の世代である800万人が75歳以上となり、超高齢社会がますます加速していきます。そういった現状を受け、もっと革新的な何かができないか--。という思いのもと、社会貢献的な研究をしようと立ち上がりました。

弊社でゼロからの研究は初めてのことですが、私たちの主たる商品は口から食べるキャンディです。特に「春日井の黒あめ」は、自社内で売り上げNo.1を誇ります。40年以上にわたり沖縄県産黒糖を使った商品をつくり続けている当社らしい研究をしようと、沖縄県産黒糖に注目しました。

しかし、沖縄県産黒糖の機能性に関する論文等は、2000年以降、黒糖に含まれるポリフェノールについて、様々な報告がされておりますが、他の食品素材に比べると極めて少ないというのが現状です。高齢社会が抱える課題に寄与できるような、口の環境に着目した何かができないかと考えていたときに、たまたま2019年に東京ビッグサイトで開催された食品開発展で拝聴したのが、今回共同研究をした斎藤一郎先生(ドライマウス研究会代表、前鶴見大学歯学部教授)のセミナーでした。

大変興味深いお話のセミナーだったので、セミナー後に出待ちをして、名刺交換をさせていただきました。斎藤先生は、唾液分泌におけるドライマウス研究の第一人者です。私たちの「食品素材を使い、高齢社会に向けて何かできないか」という思いをぶつけたところ、共同して沖縄県産黒糖のポリフェノールに着目した研究をすることになりました。

私たちの目的とするところは「キャンディやグミなどの主力商品を活用して口の環境を整えることで、健康寿命を延ばそう」ということです。そういった志を持った私たちと斎藤先生とのこの出会いは、出会うべくして出会った運命だと感じています。また、斎藤先生はたまねぎのケルセチンが唾液分泌を促進するという研究をされていたので、沖縄県産黒糖の研究もその流れで取り組みやすかったように感じています。

どのように研究を進めていったのでしょうか?

最初は細胞レベルの実験から始め、次に動物実験、ヒト臨床試験とステップを3つ設け、段階的に研究を進める計画を斎藤先生とともに立てました。

細胞レベルからスタートしたステップ1では沖縄県黒砂糖協同組合様から研究費のご支援を、動物実験を行ったステップ2では、愛知県の新あいち創造研究開発補助金を活用しました。

ステップ3のヒト臨床試験では、軽度の唾液減少感などの症状を有する40歳から63歳の健常者を対象に行いました。黒糖ポリフェノールを多く含む沖縄県産黒糖を使用したキャンディを摂取する群と、沖縄県産黒糖を含まないキャンディを摂取する群で比較試験を行いました。 その結果、沖縄県産黒糖を使用したキャンディの摂取は黒糖を含まないキャンディの摂取と比較して、唾液分泌を促進することが明らかとなる結果を得ました。これを2022年に論文化したものが、国際学術誌に掲載されました。

研究成果のポイントはどこでしょうか?

今回の研究での新しい発見は、沖縄県産黒糖を使用したキャンディを舐めると、血流が促進され唾液が分泌されるということです。のど飴を舐めても唾液は分泌しますが、これは甘さによるものです。しかし、沖縄県産黒糖を使ったキャンディの場合は、沖縄県産黒糖に含まれる“ポリフェノール”が血流促進に作用し、結果として唾液を分泌するということが分かりました。

この作用するポリフェノールだけを抽出し、サプリメントのような形で摂取する方法も考えられます。しかし、食品の機能は相互作用する可能性もある。そういった意味では、作用点の多い「食品」として摂取することが望ましく、また、キャンディは口の中に留まる時間が長く、より唾液腺の細胞に作用します。口の中に長く(5~10分ほど)留まる、“キャンディ”だからこその良さとも言えます。

また、沖縄県産黒糖は、外国産や加糖黒糖に比べて、今回の研究で着目した3つのポリフェノール(サポナリン・スカフトシド・イソスカフトシド)が多いことが特長です。外国産のものと比較すると各ポリフェノールは約1.5~3倍ほど多く含まれていることが明らかになっています。このことより、「沖縄県産黒糖」でなければ得られない効果であり、明らかに他と差別化できるポイントではないでしょうか。

現に、沖縄は健康長寿な県でもあります。お茶請けや料理として習慣的に根付いた食品素材の影響が、今回、科学的根拠によって明らかになったのではないかと考えています。

最近、健康について語られる中で「フレイル」という言葉をよく耳にします。これは、健康な状態から病気になる、その中間的な段階のことを指します。例えば「ちょっと歩きにくくなったな」といった衰えを感じる症状が出る頃ですね。この段階に入る前には、口の環境が衰えると言われています(オーラルフレイル)。口腔機能が低下するとウイルスや細菌等の影響により、様々な病気を引き起こしてしまったり。だんだんと老いていく前段階の口の環境に着目し、未然に防ぎ、健康を維持したい。今回の研究はそのいいきっかけになるといいなと思います。

図1 ヒトにおける沖縄県産黒糖を含むキャンディを摂取したときの唾液分泌量
春日井製菓株式会社 プレスリリース詳細版より

今後取り組んでいきたいことは?

沖縄県産黒糖には、まだまだ未知の部分がたくさんあります。今、世の中的にも健康寿命への関心が高まる中で、いかに消費者の方に知っていただくか、認知を広げることが大切だと考えています。

唾液分泌を促進することによって、自己免疫力をあげるという、素晴らしい効果が今回得られました。時代は、薬で治す時代から、予防医学へと移り変わっています。健康食品のように、薬と食品の中間のものが浸透し、食べるもので健康を維持することができる。食べることを楽しむことが、健康につながることを願います。

今回、沖縄県産黒糖の機能性について、今まで眠っていたものを掘り起こすことができました。社会貢献的メッセージもインパクトもある成果だと思っています。それによって沖縄県産黒糖の消費拡大に結びつき、沖縄県産黒糖を使用する産業が活性化する好循環が生まれればと考え、特許を取りませんでした。これは、沖縄県産黒糖を40年以上使っているからこその感謝でもあります。

未来は、どのような可能性がありますか?

近年、特に健康寿命が注目されているのは、楽しく健康に長生きしたいということの表れです。そうした時に、口の衰えは咀嚼も含めて極めて大きな支障となります。噛めなくなることで、脳への刺激がいかなくなるためです。

今回得た、血流促進の効果には、未来があります。もしかしたら女性に多いお悩みの冷え性解消につながるかもしれない。はたまた脳への血流が良くなり認知症予防に役立つかもしれない。まだまだ確証はないですが、大きな可能性を秘めていることは確かです。

そういった可能性への期待の声もいただいていますので、今後もさらに研究を進めていきたいと思います。

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