Interview

瑞穂酒造株式会社 製造部 商品開発室 室長 仲里 彬 さん
「沖縄黒糖が生まれる8島を、聖地巡礼の地にしたい」

仲里 彬 さん
瑞穂酒造株式会社 製造部 商品開発室 室長

仲里 彬 さん 瑞穂酒造株式会社 製造部 商品開発室 室長
瑞穂酒造株式会社 製造部 商品開発室の室長のほか、「ONERUMプロジェクト」のプロジェクトリーダーを務める。「ONERUMプロジェクト」の一環で、沖縄8島の黒糖を1島ずつ、使用したラム酒を開発中。2月27日には、第8弾となる、「IE ISLAND RUM(イエ アイランドラム)」が発表された。

「沖縄8島(伊平屋島、伊江島、粟国島、多良間島、小浜島、西表島、波照間島、与那国島)の黒糖を使い、8種類の国産ラムを開発・販売する瑞穂酒造。今回は、商品部 商品開発室 室長・仲里 彬さんに、『ONERUM』プロジェクトについてインタビューを実施しました。」(インタビュー日:10月3日)

瑞穂酒造について、教えてください。

琉球王朝時代の1848年に酒造りを始め、首里最古の蔵元として泡盛の製造をしています。175年におよぶ酒造りの歴史と伝統を重んじながらも、研究者や有識者、バーテンダーなど酒に携わる様々な方と連携しながら、研究や開発にも力を入れています。

2018年に「沖縄の魅力を世界へ届ける」をコンセプトに、クラフトジン「ORI-GiN(オリジン)」を発売。2021年には、酒業界で最も歴史と権威のある国際的なコンペティション「IWSC」にて、3部門でゴールドを獲得しました。我々は規模は小さな蔵元ではありますが、世界に通用する洋酒製造スキルを身につけつつあると自負しています。

「ONERUMプロジェクト」について、教えてください。

「ONERUMプロジェクト」は、「さとうきびで沖縄にさらなる熱気を」をコンセプトに立ち上げたプロジェクトです。実際、プロジェクトには、琉球大学やJAおきなわ、沖縄県黒砂糖協同組合、バーテンダー、クリエイター等を巻き込んで、ラムの製造からラムを愉しむシーンの研究まで多数の皆様にご協力いただいています。このプロジェクトの一つは、400年の歴史を誇る沖縄黒糖を主原料としたラムの研究。そのラムには、沖縄黒糖をつくる製糖工場がある「沖縄県内の8つの離島」の背景や特徴が反映されています。

プロジェクト発足のきっかけは、知人を通じて、沖縄黒糖の在庫問題やさとうきび生産者の高齢化問題を知ったことです。最近の沖縄黒糖は、在庫が多く発生し、2021年には過去最大の在庫量を抱えるほど課題は深刻。コロナ禍のあおりを受け、黒糖を使った土産製品の需要が減ったことが拍車をかけ、豊富な資源であるはずの黒糖が、十分に生かされていない現状が続いていることがわかりました。

なぜ瑞穂酒造が「ONERUMプロジェクト」に取り組んでいるのでしょうか。

瑞穂酒造では日ごろから、「世の中の課題やニーズを瑞穂酒造の強みで解決していくこと」を念頭に置いています。我々の強みは「有識者との強固な連携体制と、開拓者精神を持った商品開発力」だと認識しています。創業以来175年、その開拓者精神を持ち続け、常にチャレンジしてきました。昨今の沖縄黒糖を取り巻く課題を知り、瑞穂酒造の強みを持って解決できるようなアプローチ方法の模索を始めました。

酒造メーカーの我々が着目したのは、さとうきびからつくる蒸溜酒である「ラム」。調査してみると、世界のラムの市場規模は2027年まで5.2%の平均成長率で拡大することを示すデータがありました。また、我々に国産ラムの開発依頼が数十件寄せられていました。そのことから、国産ラムのへの関心が高まっていることは実感しましたが、国内市場では外国産ラムの寡占状態が続いており、また、県内にも既に高品質のラムを製造する酒造所があったことから開発に着手すべきか正直迷いもありました。

それでも「やろう!」と決断したのは、やはり沖縄黒糖が抱える課題に対して、何かできることを実行しなければいけない、我々がアクションを起こすべきであるという、想いからです。沖縄県民ですら、黒糖が離島8島でつくられていることを知らないという現状があります。我々が沖縄黒糖からつくるラムを通して、消費者に離島へ目を向けてもらいたい。そして沖縄の離島の産業である黒糖製糖業と農業を支える持続可能でかつ高付加価値なラムを開発することで、沖縄のさとうきび・黒糖の価値を再構築し、単なるモノづくりにとどまらず、未来につないでいこうという想いのもと、プロジェクトを進めています。

どのようにしてラムができたのでしょうか。

沖縄黒糖とその原料となるさとうきびが生まれる8つの離島にフォーカスし、地域についても発信することがこのプロジェクトの大きな使命の一つだと考えています。

そのため「ONERUM プロジェクト」の中でも離島8島で生産される黒糖を1島ごと使い、「シングルアイランドシリーズ」として、8種類のラムの商品化を実施しました。

まずは私たちが島のことを学ぼうと各島を訪問し、島の方々に触れ、製糖工場を見学しました。その中で島の文化や風土も踏まえた黒糖の個性を見出し、それをラム酒製造に活かしています。また、パッケージデザインのヒントも島の方々に協力を頂きながら探してきました。

たとえば、日本最西端の島・与那国島の黒糖は、島の人に言わせると「えぐみ」があることが特徴であり、魅力です。ラムでは、その個性を最大限に活かした味わいを目指しました。パッケージは、島で群れをなす与那国馬がモチーフ。また、より深く島の文化をお届けするため、島の伝統工芸である「クバ巻き」を施したバージョンも限定発売しました。クバ巻きとは、与那国島に自生するクバという植物の葉っぱを乾燥させた縄を編み、民具や帽子をつくる技術です。このようにパッケージ等を工夫することで、消費者の皆様にはその島で大切につないできた文化にも触れていただけると思います。

島それぞれで黒糖の味わいも文化も異なります。それらのよいところを引き出し、離島の魅力を伝えるのがシングルアイランドシリーズの役割です。8島8種類の個性豊かなラムをつくることで、各島の特長と個性を引き出す製造技術を蓄積してきました。

ONERUMプロジェクトで開発された各島のラム

今後の意気込みはいかがでしょうか?

ウイスキーではその聖地のスコットランドの小さな島に、世界中の多くの人が訪れます。それと同じように、目指すはこの「ONERUMプロジェクト」で生み出したラムをきっかけに、世界中の人々が「あのラムに使われている黒糖の島だよ」と沖縄の離島8島へ聖地巡礼してもらえることです。

単なる商品開発ではなく、沖縄黒糖製糖事業者やさとうきび生産者に貢献していけるように持続可能な活動として、今後も継続していきたいと思います。